こないだ日曜、柄にもなく『日曜討論』とえらくシブいNHKの番組を観たのは、
平野啓一郎氏出演とたまたまHPで見つけたから。
『討論』だけど口角泡を飛ばすような派手なのじゃなく、抑えられた演出なのはさすが
NHK。で、テーマは昨今の「無差別」殺傷事件についてのものだったけれども、
今年刊行された平野氏の大作、『決壊』が偶然にも同じテーマを扱っていたのが、
氏の出演につながったのでしょう。
番組の中で印象に残った平野氏の発言は、上で「無差別」と括弧書きにしたように、
・「誰でもよかった」ならなぜ手近な人間を対象にしない→わざわざ秋葉原までレンタカ
ーを借りて犯行に及ぶ理由がある(テロ)…というような話
・「自分の好きな女の子がどうしてあんな愚劣な男と…」という喩えで話された、犯人
が「モテなかった」ことを強調する意味→「努力」や合理性への懐疑の象徴としての
恋愛行動…みたいな話
と、うろ覚えで私なりに解釈したのですが、その後ようやく『決壊』を購入することが
出来て、先週の番組の発言にも合点がいきました。
さて、大作『決壊』について……貧困な表現で申し訳ないのですが、
本当に凄い、衝撃的な作品でした。分厚い上下巻本を一気に読んでしまいました。
夏休みは一般の人がするようなこれといったレジャーはほとんどしなかったのですが、
前々回のエントリ『宿屋めぐり』に加え、『決壊』といった大作に出会えたので満足です。
作中で「悪魔」が吐く台詞の一つひとつが鋭い問いを突きつけてくるのですが、
「幸福」が強制される世界……といったくだりがとりわけ印象に残りました。
しかしながら、2006年に連載を開始したこの小説を、現実がまるで追いかけるように
そっくりな事件を起こしていることに驚いてやみません。
これは作者の慧眼にただ恐れ入るのみです。