RoseEnNoir午前零時

ギタリストRose En Noirの日常身辺雑記

『ドーン』の感想

これはまた話題になりそうな、

いや話題にしたい傑作。

『ドーン』平野啓一郎

前にも作者の平野氏が出演しているTVを観てて氏のコメントを

僕なりに

「『本当の自分』ってどこにあるんだろう。そんなのどこにもない」

というふうに解釈していましたが、今回、

そんな「自分とは何か?」というテーマに、

SF的な舞台設定で切り込んだエンターテイメント色の強い作品です。

これと、

芥川賞受賞作『日蝕』や、

『顔のない裸体たち』とかが

同じ作者の作品というのがびっくりです。

さて、この『ドーン』はだいたいいまから20何年後かの世界が

設定されているのですが、

ネットにも関心の深い氏のアイデアが生んだ様々なアイテムが登場します。

監視カメラをyoutubeさながらにネットワーク化した

「散影」や、

ウィキペディアの小説版

「ウィキノヴェル」とか、

ホントに誰かが作りそうな、ありそうな、

こういう着想というのはよっぽどいまのウェブ世界について

問題意識がないと出てこないでしょう。

さて、この小説で「自分とは何か?」というテーマに、

平野氏は「分人主義 dividualism(ディヴィジュアリズム)」

というのを提唱されました。

「個人」を表す「individual」は、「これ以上分かつことのできないもの」という

のが語源と教わりなるほど。と勉強になった僕ですが、

いまの個人はそうじゃなくて、

いわゆる「キャラを演じる」という言い方が近いのですが、

それぞれの場面において異なった個人「分人」を生きている。

というのが僕にすとん。と落ちたというか、

腑に落ちたというか、とても共感できる考え方でした。

よく、「本当の自分を探す」みたいな言い方がされますが、

なんていうかそうやって無理矢理拵えられた「キャラ」が

いかにも嘘くさく思われていた僕にとって、

「分人主義」の方がいかにも自然に感じられました。

前に喩えで用いられていたと思うんですが、

個人というのは、

皮を剥いでいったら「本当の自分」が出てくるというものではなく、

皮を剥いでいったらなくなってしまう、ラッキョウのようなものかも

しれないと。

僕はそんな気がします。

http://d.hatena.ne.jp/keiichirohirano/20090726

http://d.hatena.ne.jp/keiichirohirano/20090726/1248591523