鍵 - RoseEnNoir午前零時

まさか。いつもより少し遅くなったが、午前７時前に会社に着いた。ん。なんか様子がおかしい。人の気配がしない。いつもならビルメンテナンスの人が先に機械警備を解錠してくれてなおかつ掃除をしてくれているのだが。いない。社屋の鍵はかかったまんま。鍵を与えられていないヒラ社員の僕は、呆然とビルの前で立ち尽くしていた。麗らかな春の早朝、僕は一体何をやっているんだろう？仕方なく、機械警備の範疇外にある倉庫の整理とか、駐輪場の自転車を並べたりとか、玄関のスリッパを一つずつ揃えたりとか、そんな「仕事」をして過ごした。来週は製品発表会もあるし、良かったかもしれない。僕の善行はきっと神様が見ていてくれることだろう。鼻山商事が第二のエルサレム、ブッダガヤ、メッカになるのである。ビルメンの人は７時４５分に現れ、鍵を開けてくれた。小一時間の遅れを取り戻さなければならない。猛然と電算入力を始めた僕に更なる悲劇が襲う。先月入力した給料の計算を間違えていたことが発覚した。これはまずい。取り返しのつかないミスである。取り返しがつかない、というのは切腹するしかないということである。朝から締め出しを食らったのと、切腹が怖いのとで一気にダークになった僕は今日一日ロクな仕事ができなかった。誰か介錯をしてくれませんか？