今日もとぼとぼ退社。
社屋を出たところで新町さん、
「Rさん、いま、虹、出てましたよ」
「え」
「もう消えちゃった」
「わちゃあ。残念。こんどは出てる間に呼んでくださいよ」
「そうするわ」
「僕、虹を見つけたら、いつも、宝物めざして走るんですよ」
「えっ」
新町さんの表情が一瞬曇ったような気がしたが、続けた。
「だって、虹の根元にはほら、宝物が埋まってるでしょ」
「・・・え?」
「や、知らない人がほとんどなんですよ。僕の周りじゃ誰も知らないし、
虹を見つけてもぼんやり眺めてるだけなんだから」
「・・・まあ、そうかもね・・・」
「僕は知ってるから、虹を見つけたら一生懸命追いかけるんですよ。
駅前のマンションとか、あっちの丘とか、いつも2,3キロぐらい離れたところに
虹が架かるから、それ目指して10分くらい走るんですけど、僕が着く前に
いつも、消えてしまうんです。だから、大人になってからはVOX号で
ブッ飛ばして行くんですけど、でもVOX号は30キロしか出ないし、
結局着く頃にはやっぱり、消えてるんです。虹。
やっぱり、スカイラインとか、ハヤブサとか、メチャ速い乗り物に乗ってる人が、
いつも宝物に一番乗り。してるんじゃないかと思ってるんです。
だから僕も、虹のためにスカイラインとか、ほしいけれどもお金ないし、
お金持ちになるためには宝物を先に見つけないといけないし、
本末転倒っていうのかな、ハハ。これじゃいつまで経っても僕じゃなく
スカイラインの人が宝物、独り占めしちゃうんでしょうね」
僕の話の途中から何か、諦めたような素振りを見せていた
新町さんが、返した。
「宝物って、何かしら」
「そりゃ、きっと、大判小判・・・ん、なんか違うな。やっぱり、、
金の十字架とか、宝剣とかじゃないですか。なんとなく西洋的な気がしません?
そんなの持って帰ったら、妻とか、豚児とか、きっと大喜びだし、
笑顔の絶えない家庭になると思うんです」
「・・・じゃあ、次、虹が出たら、すぐに、Rさんに伝えますね」
「ありがとうございます。もし宝物、見つかったら少し、
お裾分けしますから」
そう言って僕は会社を後にした。虹はやっぱり出ていなかった。