RoseEnNoir午前零時

ギタリストRose En Noirの日常身辺雑記

債権総論(2)

丸の内さんに

民法を教えてください」と頼まれ、

付け焼き刃の知識ながらいくつかの判例についてレクチュアした。

間違った認識かもしれないが、

基本的に人間は、「教える」ことが好きであると思う。

少なくとも僕は、僕が教えたことによって

相手が納得したり、分かったと喜んだり、理解が深まったりしたら

自分自身の自己肯定感が高まるし、

相手を変容させるという教育の原則に深く共感するのである。

だから、「教える」ことを商売にしている学校の先生なんかは、

毎日が楽しくて仕方がないと思うのだが、どうなのだろうか?

なので、表面上は遠慮を装いつつも、

丸の内さんには民法について一生懸命教えることにした。

「・・・契約上の義務を負っている者が、その義務違反を根拠に

損害賠償請求を受ける場合、その債務の時効は10年だよ。

ぅでもね、契約上の義務を負ってない人が損害賠償請求を

受ける場合は3年なんだよ。でこの判決は」

それに丸の内さんは

「へー」「そーなんだー」「ここはそういうことだったんですねー」と

いちいち絶妙なリアクションを返してくれるので

僕もついヒートアップ、

「んまあやっぱ僕は明文化されてなくても、信義則って

法律に優先されると思うんだ。僕と丸さんの信頼関係みたいにね。

そうでない相手、まあ爽川みたいなのには厳格に法を適用するよ」

等と個人的な意見まで端々に飛び出すぐらい講義は白熱した。

「なるほどー。おかげでよく分かりました―」

素人の僕の講義に、丸の内さんがあまり躓きもなく理解を示したのは

偏に彼女の聡明さに因るもの。それと僕の教え方の上手さ。と

勝手に思い込んでいたが、とんだ認識不足であったことは後日判明した。

「社内研修のレポートで、丸の内さんのは非常によくまとまっていました」

と課長がみんなに紹介したとき僕は内心のガッツポーズを抑えきれなかった。

が、当のレポートを見せて貰って陳腐な表現だが目がテン、

あまりのレベルの高さに愕然とした。

僕が教えたことはせいぜい「さわり」かオマケ程度の扱いで、

本論は物権について僕の知らない判例や言葉で

高度な議論が展開されていた。

つまり、丸の内さんは民法について初心者どころか

実はかなり詳しい方、プロであった。

レポートを補完、あるいはさらにレベルの高いものにしたく

僕とかに声をかけたが、

声をかけられた僕は実はかなりの素人であり、

プロである丸の内さん相手に延々と底の浅さを披瀝していた。

ということであった。

釈迦に説法。という諺を聞くたび、

どうして説法の途中で釈迦が説法してる素人に

「それオレの方が詳しいよ」と

遮らなかったのか常々疑問に思っていたが、

まさか僕が説法サイドの人間になるとは思わなかった。

最後まで説法させたのは、説法してる素人を後で

笑い者にするためだったとすればお釈迦様も残酷なことをする。

僕はやっぱり、人に物を教える立場の人間ではない。

と固く認識を改めた。