社内報にことしの社員紹介を載せてもらう。
課長とか偉い人は単独インタビュー付きだが、
僕みたいに下っ端はプリクラ並の写真と一言アンケートだけが載る。
今回の一言アンケートの題は
「私の好きな言葉」だった。
む。
これならばちょっと難しくてカッコいい言葉を答えて、
別に普段好きでなくても最近好きになったことにして、
いかにも教養人のように見せなければならない。
僕はこっそり机の抽斗から
『世界の名句・名言辞典』を出し、参照してみた。
・・・ダメだった。
「石の上にも三年」
僕はビジネスパーソンである。
「案ずるより産むが易し」
出産がどれだけ大変か分かっているのだろうか。
「千里の道も一歩から」
僕は3000キロもある旅程ならば徒歩でなく航空機を利用する。
・・・と、あまり僕の好きでない言葉ばかりで、
それでも偽って書いてもいいかもしれないけれども、
中には僕みたいに好きでない人もいるかもしれず、
社内報を見て「わ。私このひとと思想が合わないわ」と、
友達になれたかもしれない誰かと友達になれないかもしれないのである。
なので、僕は名言辞典をそそくさと仕舞い、
万人に支持される言葉を探しに街に出た。
あった。
果たして茨木市は豊饒な言葉の海であった。
「安さ爆発」」「追加公演決定」
「-15kg」「幼児無料」「自然治癒力」
「駅徒歩5分」「モテ男」「敷金・礼金無」
「AKB48」「早割」「授乳可」「きれいなお姉さんは好きですか」
「酒が安い」「がんばろう日本」「フランス直輸入」
「アゲアゲ」「他店で断られた方も一度ご相談ください」
きらきら輝く言葉を見つけて、
僕はいままでこんな素敵な言葉たちに囲まれて暮らしていたのか。
さすが言霊のさきわう国、日本である。
僕はアンケートの回答に、
昔営業していて今は営業しているかどうかわからない
スナックの看板に書いてあった言葉を引用することにした。
「歌い放題」
素敵な響きである。
河村隆一さんのように100曲ぐらい歌って眠りたい。