RoseEnNoir午前零時

ギタリストRose En Noirの日常身辺雑記

罵倒語

最近我が社に出没するモンスタークレーマー。

ぎゃんぎゃん喚き暴れるので営業の人も

頭を抱えているのだけれども、

とばっちりは一般職の僕にも及んできた。

クレーマーは、営業の人が

手薄な時間を狙ってやって来るのである。

手に負えないので社長が

「ちょっと大野、今度来たら相手しろ」

「えーなんで。顧客対応は営業の仕事でしょ」

「営業は忙しいんだ」

「その分たくさん給料もらってるじゃないですか」

「同僚を助けようという意識は無いのか」

「分を弁えている、とご理解ください」

「そんなことを言ってるからいつまで経っても

 平社員のままなんだ」

「営業の領分に手を出すことが出世の途であるなら

 喜んでやりますが」

「お前は営業の苦労を知らん」

「知ってますよ。昔やってたもん」

「だったら分かるだろう、行って相手してこい」

「だから僕はいま一般職で、顧客をどうこうする権限は

 ないんですが責任はとってもらえますか」

「何をいちいち言ってるんだ。絶対に手ェは出すなよ」

……と、PKOで

丸腰で戦地に赴いた自衛隊の人の気持ちがよく分かるんだけれども、

そんなことを考えていたら

営業の人がオフィースに駆け込んできた。

「MC(モンスタークレーマー)が暴れてます」

オフィースにいた他の営業の人は談話に興じていた。

「んもー茶々山さんいまの駄洒落ウケルー」

言われたとおり僕は4階の現場に一目散に駆けつけた。

現場は、噂の通り酷い。

ガラスを割り、観葉植物を振り回し、ちゃぶ台を返し、

テレビを投げ、イタ電をし、暗黒舞踏をするという始末。

これでは営業の人もまいるだろう。

が、MCに対して僕は

体格、膂力ともに勝るのであっという間に

取り押さえることができた。

大変なのはここからである。

四肢を固められて動けないMCは、

あらん限りの罵詈雑言を僕に浴びせてきた。

「馬鹿!間抜け!近眼!眼鏡等!AT限定!虚弱体質!

 貧乏!超貧乏!手取り18万円!マイナス思考!犬!

 猫舌!犬!田舎モン!破戒者!カカア天下!知覚過敏!

 権力の犬!罰当たり!窓際!整理対象!もおとこ!ご臨終!」

……と、初対面の僕によくもまあ

これだけ的確な罵倒ができるなあ。と感心していたら、

いきなりグレート・ムタ顔負けの毒霧を浴びせてきた。

顔中、MCの唾液塗れになった僕は

「手出し無用」の軛がある状況で、

反撃の術が見あたらず途方に暮れていた。

唇歯輔車」なんて難しい言葉を知ってる僕でも

MCを上回る罵倒語の語彙は持ち合わせていない。

彼の分厚い罵倒語辞書に比して、

僕は僅か50語ぐらいしか載っていない、

遊園地のパンフのように薄い

罵倒語辞典しか持っていないのだ。

かくなる上は質より量。と、

「蛸蛸蛸蛸蛸蛸蛸蛸蛸蛸蛸蛸蛸蛸蛸蛸蛸蛸

 猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿!」

と、物量で応戦したが

相手はそれを質量ともに上回る罵倒語を浴びせてくるのだ。

消耗戦に突入して1時間、お互い技を出し尽くして

「あほ」

「ぼけ」

…程度に応酬のレヴェルが下がったところで、

僕は現場を後にした。

顛末を社長に報告しに行ったら出張で不在だった。

営業の茶々山さんに呼び止められた。

「大野はやっぱりダメだなあ。所詮パン職だもんな。

 あんなやり方じゃ余計顧客を怒らすだけだろ。

 もっと柔軟に対応しなきゃ。

 

 オレならうまく躱して交渉のテーブルにつかせるけどね」

「やっぱ営業の人は違いますね。見習わないと。

 

 ちょっとケーススタディさせてもらっていいですか。

 蛸蛸蛸蛸蛸蛸蛸蛸蛸蛸蛸蛸蛸蛸蛸蛸蛸蛸

 猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿猿!」

…と言い終えたら、

 茹で上がる寸前の蛸のような茶々山さんが目の前にいた。