RoseEnNoir午前零時

ギタリストRose En Noirの日常身辺雑記

大人の階段(後編)

(つづき)

掃除スタイルでキメた僕は、猿川さんに

「掃除、しましょうか」と誘ったら

「…ああ、オレ、朝イチで商談が入っててな…」と

煙たそうな目。

猫沢さんは

「急に取引先に呼び出されちゃったよ。今から出かけてくる」

犬田さんは携帯で

「え?株価が急落だって?」と誰かと喋ってて全く取り合おうとせず、

確か昨日の日経平均は前日比105円+だった気がするんだけど、

結局オフィスでは誰一人清掃活動をしませんでした。

僕は社長に、

「みんな、全然清掃活動、しませんね!」

と半ば怒気を孕んだ口調で訴え、軍手をぴらぴらさせてでも内心

(ふふっ。でもこんな怠け者達のなか、軍手まで持参してやる気を見せた僕は

 褒美すら貰えるかも)

と期待して返事を待ったら社長。

「仕方ないな。みんな2月は忙しいんだな」

僕の中でまた一つ、何かが切れたのですが僕ももう30前。

もう一度社長、同僚の言葉を咀嚼、牛のように何回も消化したのでした。

つまり、社長は「会議でなくちょっとしたアンケートだから」という、軽い気持ちで

発言したことを僕は重要事項と勘違いして本気にしたのが間違いであり、

同僚もまたそれを心得ていて、アンケート自体は無難にさらっと流しておいて、

いざ行動する段になってフェードアウトすれば角も立たたくていいや。と

大人の対応をとったのでした。

これが、いわゆる「空気を読む」ということで、それができなかった僕は

また一つ自分の青さを反省したのでした。

挽回のチャンスは意外に早く回ってきて、翌週。

地球温暖化を防ぐため、我が社も屋上緑化をやろう」という社長の提案が

イントラネット掲示板に載りました。

(こんなクソ寒いんだから、もっと温暖化しろっての)という

心の声を押しつぶし、僕は

「賛成。我が社のイメージアップになります」と、

賛成意見、でもあまり目立たないように、無難で、月並みな理由なのは

同僚から学んだこと。

これで、あとは、実際に行動する段になってから、忙しいとか

予算がないとか適当に理由をつけてうやむやにすればいいや。

これがオレらの行動原理。読めたぜ空気。

当然のように17人の賛成が集まった社長はニコニコ顔で、

「Rくん、じゃあ今回の屋上緑化は任せたよ」

「え。みんなでやるんじゃないんですか」

「そんなに人数はいらんからな」

「でもちょっと今月は決算期で忙しいです」

「みんな同じだろ」

「予算、ないですよ」

「知り合いの園芸店に無償で協力してもらう」

「寒いし、来年にしませんか」

「みんなで決めたことだろ、なんで今しないんだ」

それから2週間後。隣の県にある園芸店に取りに行った苔を

寒風吹きすさぶ屋上で独り、黙々と植える僕の姿がありました。