RoseEnNoir午前零時

ギタリストRose En Noirの日常身辺雑記

大人の階段(前編)

「まあ、会議で決定して、とかいうカタいもんじゃなくてね、

んまあ、アンケートをとってみて感じがよさそうだったらやってみる?みたいな。

んまあ、ワシの思いつきみたいもんやけどね。」

と、2月と8月は企業にとって苦しい「ニッパチ」であることから、

社長が今月2月を「業績向上月間」と勝手に決めてその内容についてアンケートとってみる。

というお達しがありました。

回答を社内イントラネット掲示板に書き込んでね。ということで

アンケートの内容に目を通してみると、たとえば、

「定時帰社促進で光熱費を浮かす」みたいな概ね無難な内容で、

「別にいいんじゃないの」と呟いてから賛意を書き込みしたんですが、

中には、

「始業後10分間、会社周辺の清掃タイムにする」というよく分からない設問もあって、

これは社長が「やっぱり企業は地域とのつながりが大事だ。地域社会に好印象を」

と常々言っていることの具体化なんだけれども多分、某都市銀行がやっていたのを

真似したんでしょう。

僕は隣の猿川さんに

「こんなメンドイのやってられないっスよね」と囁き、

猿川さんもまた

「そうだね」

と頷きました。僕は掲示板に

「目的は理解できるし賛成です。しかしながら、会社周辺をキレイにする前に

社内をまずキレイにした方が仕事の能率も上がるし、業績も向上するのでは R」

と、腐乱している喫煙室と資料室の有様を脳裏にちらつかせながら書きました。

賛成はしないけどちゃんと相手の意図を汲み取り、しかもきちんと対案を示す。

という反対意見のお手本のような表明を書いて僕はパソコンを閉じたのですが

翌週、社長に示されたアンケート結果を見てのけぞり返りました。

問題の清掃活動について、反対票を投じたのは僕一人。

で、その意見のあとに残る16人の賛成がずらずら並ぶ並ぶ。

「賛成。地域に貢献してこそ企業  猫沢」

 

「金儲け主義でなく、顧客満足の理想を求める企業へ  犬田」

……等と、愚にもつかない賛意のオンパレード。

隣に居合わせた猿川さんも、

「清掃活動が社員の意識向上に 猿川」と

人畜無害な賛意を書いていたようでそこで仏頂面をしていました。

「まあ、一部に反対もあったようだけどね」と社長はちらと僕の方を目で追いやりながら

清掃活動の決定を告げたのです。

翌週、渋々ちょっと汚れてもいいように安物のスーツを着て軍手をはめてった日の

始業時間。

めんど。掃除なんて学生時代以来だぜ。と重い腰を上げようとしたら。

誰も掃除をする気配がありません。(つづく)