(前編からの続き)
差別と闘う3つの方法、それは。
1.イカつくなる。
立ち読みの例で示したとおり、僕だけが注意を受けて、
金髪で、背中にドラゴンボールみたいな刺繍の施されたスカジャンを羽織った
イカツい兄ちゃんがお咎めなしだった理由はもうここで言うまでもないでしょう。
今回の場合でも、僕以外の猿川さんたちはみんな日焼けして逞しい
営業マンの人たちであります。
でも、僕は金髪にすると本来の業務に支障を来すし、三島由紀夫のような
肉体改造には興味はありません。残念。
2.偉くなる。
オバマ大統領であれほど盛り上がるのも、今更…と僕は思うのですが、
でもそれだけまだ「黒人」であることが意識される国だったということです。
大統領、いやせめて社長になれれば無敵です。
でも、僕はしがない一般職なので出世の途はほぼなく、蟻が通れる位の門の
管理職登用試験を受けられる年齢には達していないし、選挙に出るにしても
資金も知名度もありません。
しかし、
3.数的優位に立つ という方法が残っている。
これはイジメの構造でもあるんですが
これだ。我が国は民主主義国家であり、民主主義はぶっちゃけ多数決の論理。
今回も、向こうは2人、こっちは自分1人だから屈したのであり、
自分に猿川、猫沢、犬田、あわよくば社長が味方すれば
5対2と数の上で逆転し、こちらに錦の御旗が降臨するに違いない。
大学ではカント倫理学を専攻し、社会契約説を研究し、
ロールズ『正義論』について論文を書いたこの俺様がなぜ気づかなかったのか。
真理は常に多数にあり。多数は理性の代弁者であるぞ。
そう誓った僕は、イヤらしく猿川、猫沢、犬田、そして社長に
ご注進して回りました。
「隣ブロックの連中が、『プリンタ使うな』なんて僕に言ってきましたよ」
さあこれでみんな怒りも露わ、数の力+感情の力で圧倒的勝利を収めるに違いない。
猿川:「そうか、じゃお前我慢するしかないな」
猫沢:「俺は、言われてないけどな」
犬田:「あ、そう……」
社長:「あいつら(隣ブロック)も忙しいんだ。遠慮してやれよ」
そう僕に返事した上記4名はそれぞれに、
隣ブロックの人たちと談笑しながら、
隣ブロックのプリンタで、
営業報告書やらメールの添付ファイルやら「ぐるなび」やらを
いつまでも印刷し続けていました。