RoseEnNoir午前零時

ギタリストRose En Noirの日常身辺雑記

友人の上司#6

「アフター5はやっぱりミスタードーナツに限るねえ」と

まるで90年代前半のような言い回しを用いつつ

オールドファッションを頬張っていた僕。

いつものようにN君がひょっこり現れて、

いつものようにスイーツ談義をした後、

いつものように係長の話題に入りました。

このシリーズ#4までで述べているなかで詳らかになったのは、

Nくんの上司である係長の偏狭な物の見方で、

とりわけ僕はその見当外れな「検閲」がおもしろくて仕方がないのですが、

今回はいわゆる「言葉狩り」というか、話し言葉にまで介入してくる、という顛末です。

悪筆で有名な鯨岡文具店の伝票を指して、N君。

「これ、内税っすよねえ」

と、係長に確認したそうです。

N君によると、伝票の消費税欄が空白だったから念のため聞いてみたとのこと、

ところが係長、N君が発したその他愛もない一文を取り出して、

執拗に説教、責め立てたというのです。

「N、貴様の日本語は間違っている。それは、(略)

・・・、俺は貴様に正しい日本語を使ってほしい。これも

貴様が正しい銀行マンになるための愛のムチだ」

正しい銀行マンてどんなマンだよ。無知なのはあんただよ。

と思わず心の中でツッコミを入れたN君だそうですが、

係長の説教を僕なりに要約すると、

1.「これ、内税っすよねえ」という言い方をよくするが、

  「あれ」「これ」とかの指示語の多用は混乱のもと。

2.正しくは

  「この小計欄の金額は内税で書かれていますよね」であり、

  「書かれる」という述語が抜けている。

という二点についての指摘だったようです。

1.については、係長はフライデーを読んだりDSをしながら人のハナシを聴くという

タレコミがあり、この場合もN君の指し示す語句を見ていなかった可能性も考えられます。

僕がひっかかったのは2.で、一見正鵠を射た指摘に見え、少なくともこれまでの

「検閲」よりは妥当性が高いかもしれませんが、これは僕から反論させてもらうと、

「僕はうなぎだ」という日本語がありますが、これは

「I am a UNAGI」ではもちろんなく、

「君は天丼を注文するのかい。じゃあ、

 僕はうなぎだ」

といったシチュエーションで当たり前に出てくるフレーズで、

「うなぎ文」として文法のテキストにも載るくらい(ホント)、日本語特有の言い回しとして

認知されています。金田一晴彦先生が言ってるんだから間違いありません。

厳密に言えば、述語の省略ではなく、「注文する」という述語を簡略して、

形式的に「うなぎ」という名詞に「だ」をつけて文にするという、

まったくエコロジカル(余計な繰り返しをしなくて済むという意味)な日本語の特徴です。

だから、N君が

「これ、外税で書いてるのかなあ。それとも内税で書いてるのかなあ」

ではなく、

「これ、外税で書いてるのかなあ。それとも内税かなあ」

と逡巡した結果

「これ、内税っすよねえ」と口に出したのは別に不自然ではない。

文句を言うなら日本語を作った人に言おう。

・・・ということを彼に教えてあげたら、俄然その気(どの気?)になったN君。

虎視眈々と復讐の機会を伺っていたN君が、

一週間後に起こった、

会社でホカ弁を注文する機会を見逃すはずがありません。

係長が発した

「俺、のり弁ね」の一言にすかさず食いつき、

「はっはーん。係長は係長じゃなくてのり弁なんだー。ぷぷー。

『He is a NORIBEN』ですね。こりゃ大統領も驚きますよ。

述語って大切ー。正しい係長になってくださいよー」

と、ありったけの愚弄を吐き出したN君。

恍惚とした表情の彼に向かって係長は、

虚頓とした顔で一言。

「君は、『うなぎ文』を知らんのか。」