長年社会人をやってて、いままで多くの部下と一緒に仕事をしました。
で、大半はこっちが指導に悩むような連中だったんですが、
中には自分を抜いて出世しそうな危険な、いや優秀な奴もわずかながらいて、
鉄くんはその一人です。
昨年私の下で働いた鉄くんは非常に器用な男で、
ある日、ソラで(見本をたよりにせずに)電車の精巧なイラストを描いてきて
それが衝撃的な上手さで上司の私もただ
「……ああ。なかなかやるじゃないか。このシングルアーム型パンタグラフを
もう少し折れさせるとよいね…」と答えるのがやっとで、
内心「こいつには敵わん」と冷や汗をかいたものでした。
最も驚愕したのは、これもある日のこと
巨大な工作物を抱えて出社してきたので何かと問うと
中から巨大な鉄橋……の模型……
そう、鉄道ファンのみならず一般人にもなじみ深い
余部鉄橋の模型を
割り箸で組み立てた
驚天動地の労作で、ここに至って
「参りました」と
初めて部下に頭を下げたものでした。
寡黙な男でしたが、たまに
等と声を掛けると
「あの岡山機関区最強の…!」といった風に
色めき立った返事が返ってきて、
「あれって出力が2500W…」とかディープな話を振ってくるので
僕は知ったかぶりをするのがやっとでした。
そんな彼から年賀状が届き、元上司のことを憶えているだけでも殊勝な奴、と
感心したのですが、そこにはしっかり4基の機関車が手描きのイラストで
鎮座していました。
通称「レッドサンダー」を添えて返事を書いたのでした。