RoseEnNoir午前零時

ギタリストRose En Noirの日常身辺雑記

行旅死亡人(2)

(承前)

数キロに及ぶ長い高架の手前。

思えばここで止まってしまったのは幸いだったのかもしれない。

信号待ちの間。

いよいよ後輪は反発力を失い、だらしなくアスファルトに接地した。

こうなるとホイールの回転力は全く伝えられず、

アクセルをふかしても右に左にタイヤが潰れるだけで、

自走不能となった。

死体というのは実際よりも何倍も重く感じられるらしいが、

VOX号はまさにそれで、

仕方なく自力で押し始めたもののとりあえず

脇道の端までもっていくのがやっとだった。

やむを得ず僕はVOX号を放擲、

必ず助けに来るから。と約束して

置き去りにしたままとぼとぼと夜の大阪を歩き始めた。

大阪といってもここは果て。

しかし、ほどなくして明かりのあるバス通りまで辿り着き、

しかも丁度市営バスが到着。

駅まで揺られることができた。

駅からは普段、自宅まで徒よりまうでけり。なのであるが

疲れもあってバスを乗り継ぐことにした。

ほうぼうの体で帰宅した僕は行旅死亡人

先に帰っていた妻も同じく死亡人だった。

人事異動で、いまの工場から市内最大の工場に

転勤することになったのである。

規模が最大ということは、生産量も最大なのであるが

必ずしもスタッフがそれに比例して配置されている訳ではなく、

仕事量÷人という立式で求められる解で最大という意味もある。

翌土曜。今日。

朝から豚児を連れコーナンへ。

VOX号救出のためである。

パンク修理キットとコンプレッサーを購入。

そして現地へ。

コンプレッサーをムーヴ号のシガーソケットに装着、

徐にエアーを注入した。が、

一向に空気圧が上がらない。

訝しく思ってタイヤを剥がしてみると、

チューブと空気を入れるところが、外れていた。

もう無理である。

諦めて帰投、いつものバイク屋さんへ。

事情を相談したが、マスターは

これから泉州に行く、よってすぐには対応できない。との

ことだった。

が、必ずVOX号は助けるから。と

心強い言葉をくれた。

僕は豚二を連れ休日出勤。

マクドナルドに寄った後、ちょっと公園で遊ばせた。

果たして。

帰途、VOX号置き去り地点を通過すると

なんと既にVOX号は引き上げ済み。

つまり、マスターがピックアップし、連れて帰ってくれた上

タイヤを交換してくれたのである。

夕刻。礼を言いにバイク屋さんへ。

はるばる果てまで探しに行ってくれた上、

タイヤ交換もしたのにたった1まん2せんえんちょっとという、

こちらを慮っての請求だった。

申し訳ない気持ちでいっぱいである。

麗らかな日だった。

妻と豚児は子供会の行事で映画鑑賞に行っていた。

僕はまたVOX号で仕事に行こう。