RoseEnNoir午前零時

ギタリストRose En Noirの日常身辺雑記

自力救済

会社の玄関にハチが巣を作っているとのことであった。

嫌な予感がした。

なぜかというと、僕はハチの巣には何かと縁があり、

前の仕事をしていたときも、ハチの巣駆除を二回ほどしたことがある。

理由はいろいろある。

周囲からは

「あれはどうやらアシナガバチらしい」

「黒い服は避けないとダメだ」

「暗い時のほうがあまり動かないよ」

「早く駆除した方がいい」

「放っておくと、危険だよ」

といろいろ有益な情報を提供された。

「中国人は道徳心が無いから儒教が生まれた。

アングロサクソンはずるいからフェアプレーの精神が生まれた。

日本人は勇気が無いから武士道が生まれた。」

そんな言葉を思い出しながら、僕も日本人の一人であることを噛みしめていた。

怖い先生から逃げ、

ヤンキーから逃げ、

美人からも逃げ、

嫌な取引先から逃げ、

明日という日からも逃げていた永遠の逃避行に終止符を打つ時が

来たのかもしれない。

ちなみに、いままでに僕が経験したハチの巣駆除は

住人が不在だったのか、これといった反撃に遭わずに済んだ。

サイズも小さかったし、箒で一閃して逃げ、つまりヒットアンドアウェイで

ケリがついた。

怖かったけど。

今回は違う。

周囲をハチが旋回し、

明らかに現住建造物である。

サイズも、でかい。

もう一度、周囲を見渡してから

「うしっ」「しちっ」「はちっ」と腹の底から響く声で気合いを入れた。

軍手を着用。

黒いジャージしかなかったが長袖の上着を羽織り、

頸部をタオルで覆った。

わざわざ黒い格好をするんだから、

狙ってくれ。といっているようなものだが。

顔面にはマスク、

その上に、忘年会で着用したロビンマスクのマスクを被った。

仕上げにメガネ。

一応、防護服の貸出がないか市役所に問い合わせていたのだが、

ウチの市ではそういうサービスはなかった。

脚立に登り、巣を作る枝先に恐る恐るゴミ袋を近づける。

奇妙なほど、静かだ。

ゴミ袋を持つ僕の手だけが異様に震えている。

枝の先から静かにゴミ袋を被せていく。

ここで刺激したらアウト、全てが崩壊する。

がさっ。一気にゴミ袋を引き、

巣を含んで枝ごと覆った。同時に枝を折りちぎり、

ゴミ袋の口を縛った。

成功である。

刹那、

巣から一斉にアシナガバチが飛び出し、

突然の異変に慌てふためいていた。

行き場のない透明なゴミ袋の中で。

それを手で持ちながら僕は、

足が竦んだ。

握る手が汗でびっしょりになっていた。

巣の中には幼虫の姿も確認された。

ロビンマスクはイギリス人だったような気がした。