RoseEnNoir午前零時

ギタリストRose En Noirの日常身辺雑記

異次元

妻は出かけていていない。

ひどい話だ。

あまり事実に即して書くとその会社が特定できてしまい

名誉毀損だとかいろいろ面倒になるので詳細は省く。

本当は僕の名誉がキソンされたのだが。

いつも売掛金を滞納しているうれしくない取引先があった。

仮にA社と記す。

電話しても留守。内容証明付きの督促を出してもしらんかお。

だけどもそれでも取引先の一つには変わりなく、

下っ端の僕がどう思ったところで簡単に関係を解消できないのが辛い。

僕が課長だったら即座に切る。

しかしながら僕は分相応に誠実に、

紳士的に売掛金の催促をし続けていた。

いろいろA社の身辺を探っているうちに、

一つ判明したのが、

この規模ジャンルの会社だったら受けられる、

某経済団体の中小企業支援金。を

貰っていなかったことだ。

全てにおいてルーズなこのA社、

タダで貰える金すら面倒で貰っていなかったのだ。

そこで僕はウチらの業界の元締めである某経済団体に交渉し、

A社にも連絡を取って(売掛金以外の話は通じる)、

書類を8割方代行して作成、

「僕の」苦労の末

晴れてA社は中小企業支援金を受給したのであった。

これでも僕は伊達にFPをやっていない。

僕の狙いはA社に支給することではなく、

某経済団体の規程にある

「売掛その他債務に充てることができる」という文言で、

これはA社に債権をもつ取引先が某経済団体に申請し、

一応、A社との合意のうえで、支援金を債権に充当することができる。

という仕組みである。

僕はよっぽどA社に恩を売りたかったが、誠実に交渉し、

A社は支援金を僕の会社の債務に充てることを約束してくれたのだ。

最後は円満な決着であった。

これにマルひと月かかったが、

文書に判をもらった晩は今年一番の深い眠りに就けた。

ところが。である。

僕との立ち会いのもとで作成された合意書が提出された翌日、

A社は某経済団体に電話。

「やっぱ昨日の合意書、取り消しまあす」

無論、電話の口上と押印済みの文書のどちらに拘束力があるかは

明々白々だが、

この馬鹿な、もとい軽率な、もとい浅薄な、もといやや判断ミスの、

この担当者、

「電話じゃナンなので、鼻山商事(僕の会社)と再度撤回の申出書を

 作成してください」

と返事したそうだ。担当者は正直にウチにもこの連絡をくれた。

A社にそんな度胸もなかったのか、ウチに撤回の申出に現れることはなかった。

そうこうしているうちに期限の2月某日を迎えた。

はは。なんだかんだいって結局ウチに支援金は入る。

僕はまた、深い眠りに就いた。

担当者が馬鹿なのはここからである。

僕に大量の書類を書かせて、4回ダメ出したこの担当者、

なぜかA社には異様に甘く、

何度も

「撤回するなら今のうちですよ」

「申出書の期限は○日でしたけど、24日でもギリギリ間に合いますよ」

とA社に親切に電話、

僕には

「信頼関係がありますので、無理な交渉(A社の要求をつっぱねる)は

 しないでください」

と大きなお世話。

そして「ギリギリ間に合う」24日、A社は颯爽とウチのオフィスに現れ、

僕の目の前に申出書を突き出した。

上のように釘を刺されていた僕は、

今度は自分が黙って判を押すしかなかった。

「あのう、では売掛金はどうして頂けるんですか」

「あーいま忙しいからー話してるヒマないしー」

A社は颯爽と去っていった。今日は金曜日だ。

僕のおかげで貰った支援金で、さぞかし旨い酒が飲めるだろう。

僕は妻の留守番をするために会社の飲み会にも行けなかった。

さらに僕に追い打ちを掛けるように、

担当者から電話。

「A社さんから申出書、もらったんですよね、それ、

 あなた必ず今日中にもってきてくださいね、

 今日がギリギリの期限なんです、

 信頼関係ですから」

僕に言い返す余力は残っていなかった。

VOX号で夕暮れの中、某経済団体事務所までとぼとぼ走った。

寒かった。

冷たい風も茜色の空も対向車も、

A社も担当者も何もかもが矛盾だった。

全てが僕の理解の範疇を超えていた。

分からないことだらけだ。