「最近、六支丹君、見ないね」
「ああ、あいつ、前に辞めたよ」
「ええっ?知らなかった。・・・なんで?」
「なんか、あいつ丸菱地所に転職したらしいんだ」
「マージーでー?超バリバリhampanai有名企業じゃーん」
「大人しい奴だと思っていたら陰でこっそり準備してたらしいんだ」
「てゆーかー。新卒なのにー」
「だろー。転職が決まったらさっさと辞職願出して、いなくなったよ」
「すっげー。あっさりしてるー」
「4月まで遊んで暮らすんだとよ」
六支丹君というのは広報課の新入社員で、
僕らの会社に何年かぶりに入ったイケメンで周囲の期待も高い男だった。
イケメンというのは本当に得だと思う。
しかし、2012年になってから姿を見ないことに気づいた僕が
六支丹君の課の人に訊ねたところ、
上記のような返答が返ってきたのである。
彼が転職した先は業種も違えば、ネームバリューも違う
押しも押されぬ大企業で、まあイケメンに相応しい会社といえばそうだが、
あまりにも出来すぎた話で面食らった僕だ。
広報課の人によれば、
「まあウチらの給料、見ての通りだし、業界の先行きも暗いし、
見切りをつけるなら早めがいいよな」
とのことだったが、
こうも颯爽と転身できる身のこなしの軽やかさというか、
才能は羨ましいという他ない。
もっとも、僕は有名企業に転職しようとかそんな野心はひとっつもないが、
現状に安閑としているのはなんとなくまずいと思ってはいる。
六支丹君のドライさまでは真似することはできそうにないが、
行動力は見習わねばならない。
がんばろう。