命名考(3)
(2)では野球チームの名前について論じたが、
何よりも重要なのは人物の名前である。
鈴木一朗さんが「イチロー」になった途端3500安打を放ったり、
最近では岡田貴弘選手が「T-岡田」と改名していまや
ホームラン王寸前である。
それほど人の運命を左右する名前だけれども、
巷間にあふれているよい加減な名前を見るにつけ僕は
歯がゆかったり臍を噛んだり枕を濡らしたりしている。
(2)で証明したとおり、
「名前と実力は比例する」のであるから
子供にはできるだけ強そうな名前をつけてやるべきだろう。
「のび太」と「武」では
もうどちらが強いかは疑うまでもなく明白である。
「火を見るより明らか」ではなく
「字を見るだけで明らか」である。
「字を見るだけで明らか」というのは
日本語の漢字は世にも珍しい表意文字だからであり、
例えば「静」という1文字だけで
「ああこの人はおしとやかで奥ゆかしい女性なんだな」と
表すことができるのである。
また、僕の知り合いに「美子」さんという人がいるが、
この人は名前に恥じぬようボールペン字の習字に励み、
「日ペンの美子ちゃん」として大ブレークを果たした。
「ミコちゃん」という音だけでは表現できない意味を
漢字は表現できるのである。
しかーし、表意文字であることをないがしろにした、
音の表現に固執した安易な当て字の命名、
「覇亜斗」とか「織美亜」なんかを目にすることが
ままあるのであって僕は残念で仕方がなく思う。
例えば上の例に挙げた「亜」という字は
字形も幾何学的で美しいし音も優しいので
実際に人名でよく使われているけど、
訓読みでは「亜ぐ(つぐ、=『次ぐ』と同意)」になるのであり
もし子供をトップ公立校に入れようという目標がある人にとっては
あまりお勧めしない字である。
そういえば「巷間は」と上で述べたが、
かつての日本もひどいもので、
一郎(イチローではない)、次郎三郎という安直な順位づけや、
トメさんとかまるで大人の事情しか反映されていないような
名付けがごく普通に行われていたのだから驚く。
「名前と子供の人格は関係ない」とまだ主張する人もいるかもしれないが、
プロ野球チーム然り、ドラえもん然り、
名前と人格に相関関係があるのは最早明々白々である。
だから僕は自分に子供が生まれたら他を圧倒するような名前をつけたい。
男の子ならやっぱり
「幕府」、「猛牛」
あたりだろうか。
飲み屋では「ばっくん」とか「モーちゃん」と呼ばれるだろう。
女の子なら
「貴妃」「虞美人」である。
これで僕の息子娘たちは
将軍になったり傾城の美女になったり凄いことになるに違いない。