RoseEnNoir午前零時

ギタリストRose En Noirの日常身辺雑記

昇進試験

周りの子がコムサとかミキハウスとかを着ている中で、

豚児だけ西松屋、良くてジャスコの衣服を纏っているのは偏にパパの稼ぎが少ないから。

家族にひもじい思いをさせている後ろめたさは常に僕の生活を付きまとって離れません。

なので、こんな貧乏生活から脱却、出世して豚児にもファミリアの服を着せてやろう。と

一念発起して今回、会社の昇進試験を受けてきました。

僕はいまどヒラですが、弊社ではこの歳になると「係長補佐」という

訳の分からないポストが用意されており、

4人に1人ぐらいの割合で昇進できる仕組みになっています。

「係長補佐」といえどもここが出世の登竜門。確実に月給は1万円は上がるし、

どんなハードな試験が待ち受けているんだろ。と構えて応募したところ、

なんと「面接10分間」という薄味あっさりのもので、

こんなんでヒトの人生を左右されちゃたまらない、と憤慨しつつ

地下鉄に乗って本社に行ってきました。

正直言って、商法とかファイナンス関連の知識を問うようなペーパーテストなら

受かる自信はありますかかって来い。しかし、過去に面接10連敗を数えたような

僕には到底通ると思われない代物です。

今回はもう諦めたので、来年以降受けるであろう後輩たちに昇進試験の全てを

再現して残しておきます。刮目せよ!

本社10:50に招集。控え室には20人程度集まりました。

時間はずらしているものの、二日間で81名もの平社員が押し寄せる模様。

「部屋に入ったら所属と氏名を言ってね」

面接室は6部屋用意してあり、僕は会議室「5」で受験でした。

11:10開始のため、部屋の前で待つ。そしたら人事課のおっちゃんが出てきて

「ノックして入ってね」と言い残して入っていった。僕は5秒後にノックして「しつれいします」

つかつかつか。「茨木支店総務課 大野です」「はいどおぞ」

「まあ面接ということで緊張してると思いますが」

「はいしてます」

「10分間という短い時間なんでよろしく」

「(あのストップウォッチうちの支社にもあるわ)はあ。」

「あっのー。大野さんは採用されて2年…ですが、どおですか。

採用される前のイメージと、何か違うとことかありました?」

「ええ、まあ。なんか一般職ってお金の計算ばっかするのかな、と思ってたんですけど

結構他の雑用やらされるんですよね」

「例えばどのような」

「えっと、壁のペンキ塗りとかアンテナの向きの調整とか」

「やってみてどおですか」

「いや案外楽しいですよ。僕のおかげで5チャンネルが映るようになりましたしね」

「なるほど。2年間で何か思い出に残ったことってあります?」

「やっぱあれですよ。売掛金の回収に行ったら夜逃げされててもぬけのカラでねえ。

でも置き去りになってた骨董品をこっそり捌いたら3万円にはなりましたけどね」

「そうですか、大変ですねえ。いま、回収って言ったけど、

そういうのはどうやって解決していったらいいですか」

「手紙、電話、通りすがりに捕まえる、取り立てに行く。ですね」

「例えば営業の人と協力してったら、もっといい解決方法があるんじゃないですか」

「そおですね。やっぱ、営業の人が商談してる時に僕も割り込んじゃうとか、協力してやりたいですね」

「ほお。ところでいまの会社の配置は・・」

「あ、複数配置で、もう一人総務やってます」

「そうですか、相方とはどおですか」

「ええ、年も近いし、二人ともオリックスファンなのでよく契約更改の話をしますね」

「へえそうなんだ。相方は何年目?」

「僕より二年先輩です。でも実績はそれ以上にあります」

「じゃあ仕事の分担はどおしてますか」

「えっと、僕は給湯室の温度調節と、コピー機のトナー補給、あとエアコンの掃除、

それにおやつの買い出しぐらいかなあ。

相方は財務諸表の管理と、給与データベースの操作です。でも、大概二人で

あれこれやってますけどねえ『これはなんて読むんだろう』『「ひとえに」ちゃうかな』」

「ああそうなんだ。協力してやってるんですね。ふだんはどこで仕事してるんですか?」

「一応僕ら用に狭隘な総務スペースが割り当てられているんですけど、

寒いし電話もないから営業のみんなのいるオフィースで普段は仕事してます」

「そうなんだ。営業の人たちとはどんな関係ですか?」

「いやそりゃもう、僕を頼りにみんなが詣でてきますよ。

ウチの課のアンテナがゆがんでるから直したまえ。とか」

「ほお。支店長とかもよく顔を出したりするんかな」

「そうなんですよ。しょっちゅう僕に『節水節ガス節電気』の看板作れとか言ってきますしね。」

「じゃあみんなとは結構コミュニケーションとってるんだ。上司とも?」

「そうですね。支店長にもなんやかやで毎日一回は苦情の言い合いをしてますしね」

「顧客の方はどんな感じですか」

「いやあ、売り上げもまずまずだし、いいんじゃないですか。でも最近、

返品率が高いのが気になりますが」

「じゃあ、たとえば大野さんが、顧客からのクレーム的返品に居合わせた場合、どおする?」

「そりゃまあ、一応その場は対応しますよ。でもそれって営業の人の仕事ですしねえ」

「やっぱ営業の人に『一般職の分際で』とか言われたりするんだ。はは。」

「いや僕は分を弁えてますから…そんな出しゃばりませんよ。適当に対応してあとは

営業に引き継ぎます」

「そうですか。まあ、じゃあ営業の人ともそこそこうまくやってるんだ」

「はい。社員一丸となって業務にあたっています。人に恵まれた大変すばらしい支店です」

「時間ももうないんだけど、係長補佐になってやりたいことってある?」

「あっそりゃたくさんありますよ。いいですか。まず、

社内の会議でもガンガン発言して、議論を横向きにリードしたいし、

いま取り組んでる総務スペシャル万能マニュアルづくりも僕が監修します。

豚児のために、もとい会社のために僕を昇進させてください」

「わかりました。これで面接は終了です。お疲れ様でした。」

「ありがとうございました」つかつかつか。「しつれいします」がちゃん。

放心状態の僕は帰途のエレベーターで1Fと緊急連絡ボタンとを間違えて押してしまい、

「どうしたんですか!何かあったんですか?」と

スピーカーから大声で訊ねられて縮み上がった。