RoseEnNoir午前零時

ギタリストRose En Noirの日常身辺雑記

八月の路上に捨てる(不定期読書案内)

『八月の路上に捨てる』伊藤たかみ

今年の芥川賞受賞作。これを目当てに文藝春秋8月号を買いました。

「けむりづめ」というメタファが印象的だったこの作品。

「けむりづめ」…というのは詰め将棋で用いられる技の一つで、

持ち駒を次々と敵に奪われつつも、最終的には玉を追い詰める、という

神業に近い代物なんだとか。

主人公は、脚本家という夢を捨て、離婚によって家族を捨て、

浮気相手は去り、心を通じ合える同僚(仄かな恋?)は目前に再婚を控えていた。

全てを失った先に、果たして辿り着くべき場所は?

主人公は案外、その先に根拠もなく希望を見出したりする。

「けむりづめ」

離婚届を出す前日に、主人公夫婦が想い出を回想するデートに出かける。

一瞬、心を通い合わせる描写が切ない。私たち、いままでにもこういうことを

していたら…という妻の述懐。

自分にとっての将棋の詰め方は何だろう、とちょっと考えた作品。