RoseEnNoir午前零時

ギタリストRose En Noirの日常身辺雑記

査察(2)

査察。

会社にIAEAとかの偉い人が来てあれこれ点検されるのである。

今回は主に、

「ちゃんと社有財産を管理しているか」というものである。

午後。門までコンサルタント閣下をお出迎え。

「ははあ。ようこそいらっしゃいました。まずは応接室で一服・・・」

「ええわ。早速始めよか」と

車を降りるや否や社屋周りをぞろぞろ歩き始めた。

コンサルタントの人たち、本社の偉い人たち、僕、のご一行である。

皆一様に、小蝿が顔の前を旋回して鬱陶しいような

しかめ面をしている。これも役作りの一部なのだろうか。

それとも普段、イオンとかに買い物に行く時もこんな感じだろうか。

おもむろに散水用の蛇口をひねるコンサル。

「水、出えへんやん」

「あ。なんででしょ」

「なんでやあらへんよ。蛇口は水が出てナンボやろ」

「水が出ない蛇口だって蛇口ですよ」

「ちゃうよ」

社屋周辺を歩きながら手当たり次第に目に付いたものを

ひねったり、小突いたり、撫でてみたりするコンサルご一行。

僕はプレイしたことはないが、

ドラゴンクエストというゲームを思い出した。

「この物置、何」

「あ。これは社員旅行で使うバーベキューセットが入って」

「設置許可、本社に出してんの?」

「出してます。たぶん」

「ちょっとここの倉庫、開けて」

「ははあ。今すぐ(ここはいつも掃除してるもんね)」

がらがら。

「(一瞥して)ふうん。じゃ次」

「この築山、何」

「たぶん工事の人が余った土砂を置いてたんじゃないかと」

「要らんわな」

「やっぱりそうですか」

「ちょっとこの消火栓、使ってんの」

「使ってませんよ。火事なんてないですもん」

「時々点検してんの」

「してます。たぶん」

「まだ去年のポスター貼っとるやん」

「まあ、これも歴史の記録かなあ。と」

その後、一行は社屋の裏へ。

こんなところまで見に来るとは物好きも物好きである。

「うわ(雑草が)ひどいわ」

「まあ、こんなところ手入れしませんし」

「誰か来たらどうするんや」

「こんなとこに来るのは不良とか、告白する女子とか、

あとみなさんぐらいですよ」

「ほら排水溝が剥き出しやんか。危ないやろ」

「まあ、不良とか告白される奴の安全までは保障できません」

「ほんでこのツタ、えらい伸びとるな」

「彼らもそれが仕事ですから」

「つまり、『放ったらかし』か」

挑発的な文句である。

「いいえ。見守っています」

「伸び過ぎやろ」

コンサルは口々に「マジ伸び過ぎ」

「無駄に伸び過ぎだよねー」と

僕らが放置していたツタを弄んでいる。

「まあ、ツタぐらい生えますよ」

「生えたら始末せなアカンやろ」

「甲子園みたいな例もあります」

「あれは意図的にやってるんや」

「理由とか、根拠とかって、万物に必要ですか」

「当たり前やろ」

「じゃあ、ツタがここに生えているのは、

 『ここにツタが生えているから』という理由があるのでOKですよね」

「あかんわ。それやったら無限に同じ理由が続くやろ」

「僕らが信じてることなんて所詮、そんなものですよ」

「そんなんで説明できひんわ」

「主観的なものですよ」

「客観的に言えるかどうかや」

「他人の価値判断にまで容喙できません」

「ウチ(コンサル)らは『アカン』と考える」

「あそうですか」

「そうですか、ちゃうやろ。世の中には『アカン』と考える人間がおって、

 それに対してどう説明するかを聞いてるんや」

「僕らは『ええんちゃう』と思ったから。それだけです」

「それでは納得できひんわ」

「だから、他人の価値観に踏み込むような傲慢な真似はしないと

申したのです。コンサルの皆さんがルソー的な一般意志を代表

しているのならば諾々と従いますが、恐らくはそこまでではなく、

ただ『コンサルタント』という職務に従って難癖をつけているだけではないかと

推察します。あなたはかつて甲子園に行く度に、ツタに文句を言っていたのですか

いいえ違うでしょうカッコ反語。

お仕事の重責は重々理解しておりますが、万物に意味を求めるって、

正直しんどくないですか。例えばいまあなたがつけているネクタイ、

それを着用に及んだ訳を僕に説明してください。って言われていちいち

説明するべきですか。めんどいでしょう。僕はめんどいので

重要マターにだけ絞ります。正直ツタなんてどうでもいいです」

「『このネクタイを着用しようと思ったから』 それが理由や」

その後僕は、膨大な是正報告書の記入に従事することになった。